• 「砂の器」(映画版 1974年)名台詞集
  • バーで和賀英良をみて、吉村刑事がホステスにあれは和賀英良かと聞く。それに対して。
    「ええ、今年もまたニューヨークのフィルハーモニーに招待されて指揮をなさるんですって」
    「へえ」
    「でもその前に何か大きなものを作るらしいわ」
    「大きなもの・・・?」
    「ええ、オーケストラとピアノのための『宿命』。発表の前から題名まで公開するなんて彼らしいわね」

  • 和賀の愛人の部屋で− 「私は今まで何でもあなたの言うことに従ってきました。手術が怖いから言ってるんじゃありません。だから・・・」 「駄目だよ。絶対に駄目だよ!!」
  • 和賀の正式な婚約者田所佐知子とその父でもと大蔵大臣の田所重喜との会食の席上−
    婚約者の父である田所が和賀に言う。
    「まあ、好きなようにやりなさい。できることは何でもするから・・・」
    これに対して佐知子は和賀を振り返って言う。
    「大丈夫よ、英良さん、今度はすごい意気込みなんだから。きっとすごい作品になるわ」
    佐知子の言葉に頷く和賀。続いて田所が、自分の過去を感慨部深げに回想するようにいう。
    「これからの君は大変だな。いろいろと足を引っ張る連中が出てくる。自分に親しい振りをしてな・・・」
    佐知子が答える。
    「パパッたら政治の世界と芸術家の世界を一緒にしちゃ駄目だわ」
    それに対して和賀。
    「いや、同じ人間の世界だ、そう違うわけはない」
    ここで一端言葉をきって続ける。
    「しかし、違う点があるとすれば、それは我々の世界は出来上がった作品が勝負だということです」

  • 「宿命」を、1974年当時の日本としてはノーブルな雰囲気の部屋で作曲中に婚約者−元大蔵大臣田所氏の令嬢−が和賀にこう呼びかける。
    「段々形が出来上がってきてるみたいじゃない。『宿命』ってなにかしら」
    「誰にもわからない」
    「それじゃ音楽は音楽家以外にはわからないの?」
    「誰にだってわかるさ。・・・出来上がればね」
    ここで婚約者が話題を変える。
    「パパがね、私たちのこととっても心配してるの。この前の週刊誌みたいにゴシップ扱いされちゃ困るって。・・・結婚するならむしろもう少し早く・・・」
    「考えてないね。仕事中は」
    「今度の仕事が終わるまでなの?それとも・・・」
    令嬢が続ける。
    「私ね、あなたとなら幸せになれそうな気がするの。・・・だけどあなたは、・・・そうでもないのね」
    「幸せなんてものがこの世の中にあるのかい」
    和賀が続ける。
    「そんなものは初めからないのさ。だから皆がそんな影みたいなものを追ってるんでね」
    「それが・・・『宿命』?」
    「もっともっと大きくて、強いものだ」
    「もっと強くて大きなもの?」
    「・・・つまり生まれてきたこと、生きているということかもしれない」
    「・・・生まれてきたこと、生きていること・・・。それなら私にもわかるわ」
    令嬢がおもむろにハンカチを和賀に突きつける。
    「だけどもうひとつの『宿命』だけは切っていただきたいわ」
    「ズボンのポケットの中から」
    「慎ましい香水の香りね。いいわね、どんな方かは知らないけどこれだけははっきりさせてね」
    ごまかすように再びピアノに向かって曲想を練る和賀・・・

  •  夜愛人から連絡を受け取り車中で−
     「私ね、病院の前まではいったんです。本当です・・・でもね、入ろうとしたら赤ちゃんを連れた女の人とその夫らしき人が・・・。お願いです。私あなたと結婚したいから言ってるんじゃないんです。あなたは田所佐知子さんと結婚すればいいわ。でも子供だけは・・・子供は私が生んで育てます」
     突き放すように言う和賀。
     「だめだ。子供だけは絶対にだめだ」
     「どうして?・・・」
     「・・・生まれてくる子供には父親がいないんだぞ」
     「でもあなたよりは幸せだわ!!」
     愛人の言葉に目を見開く和賀。
     「その子には私がいるわ・・・母親がね。大阪の空襲で両親がともに亡くなったあなたよりは幸せだわ!!」
     そう叫ぶなり車を走る出る愛人の玲子。それを追わない和賀・・・しかし玲子はこのあと流産による異常出血で死ぬこととなる・・・。

  •  警視庁合同捜査会議の席上−ほぼ同時に作曲・指揮・ピアノ:和賀英良、演奏:東京交響楽団によるピアノとオーケストラのための「宿命」の初演も始まろうとしていた−刑事の一人が今西に発言を促す。
     「では今西君、本件容疑者の和賀英良に対する説明を」
     今西刑事が和賀の真の出生とその放浪に触れる。
     「ではまず和賀の身分出生から申し上げます。和賀英良、本籍地大阪府大阪市浪速区恵比寿町○−×ー△、現住所東京都渋谷区穏田□ー○、父和賀英造、母カツエとなっておりますがこれは彼の創作でありまして、彼は同家の雇い人であり、戦後本籍復活の手続きをとったに過ぎません。真の出生は本籍石川県上沼郡大畑村字野中1番地、父本浦千代吉、母はフサ、この二人の間に生まれた彼の本当の名前は本浦秀雄、出生は昭和12年3月17日、こうなっております」
     舞台はコンサートホールに移り、その舞台に歩み出る和賀。聴衆を見渡し深々と頭を下げる。
     「ところが、彼が3歳のときに父親である千代吉が病気になったために母親のフサが同家を去り、以後は男手ひとつで秀雄を育ててまいりましたが、昭和17年の夏、彼は生まれ故郷を捨てて旅に出ます。幼い秀雄の手を引いて故郷を出て行ったのであります」
     コンサートホールの和賀。ピアノに座りオーケストラの団員を見渡した後まっすぐに前を見つめる。
     今西が会議場で続ける。
     「彼に母親を去らせ、故郷まで捨てさせたものは一体なんでありましたでしょうか」
     ここで一端言葉を切ってから覚悟を決めたように続ける。
     「それは父千代吉の病気、当時としては不治の病といわれたらい病であったのであります」
     再びコンサートホールの和賀。ピアノに向かい合い決意をこめて最初の和音を奏でる。短いピアノ独奏のあと、和賀が両手を振り上げオーケストラが一斉に合奏を開始する。そして場面は袈裟姿の親子が故郷の村を名残惜しそうに、そしてなぜ村を追われなければならぬのか、その理不尽さに耐えかねるような表情で村を高台から見下ろす場面へと移行する。以後、物語は「宿命」を常に背後に鳴り響かせながらこの親子の日本各地の放浪シーンと警視庁合同捜査会議の場面、「宿命」の演奏会場の3つの点から和賀の悲愴な生い立ちと、三木謙一殺害に至るまでの経緯、そして和賀の、「過去」及び「音楽」としての、「宿命」そのものが語られそして奏でられてゆくことになるのである−

  •  「宿命」の演奏が始まってややすると、今西刑事は捜査会議に集まった捜査官にこう告げる。
     「この親と子が、どのような旅を続けたのか、それはこの二人にしかわかりません」
     再び情景は親子の放浪シーンに移る。雪の吹きすさぶ道、食料を求めて民家の戸をたたくと白米をもって婦人が戸を開けて出てくるも、千代吉の顔に表れたハンセン氏病(らい病の正式名称。発見者の名にちなむ)の症状(皮膚が硬化し醜く変ずる。症状が進むとほとんど骸骨のような顔になってしまう)を見て即座に戸を閉める。ふくれっ面をして父を眺める秀夫。父はただ寒さによるものか、差別への諦めか震えるのみである。
     厳しい冬を越えて春を迎えるが、秀夫はある村で悪童共に取り囲まれからかわれる。それに怒りを燃やす秀夫。舞台は「宿命」のコンサートシーンに移り、音量が下がり落ちついた感じになる。しかし、和賀(=秀夫)がピアノの席で右腕を振り下ろすとオーケストラは一気にフォルテに音量を上げ、再び放浪シーンに戻った映像で和賀少年は取り囲む悪道に立ち向かう。しかし数のせいで劣勢に追い込まれ、父千代吉が棒をふるって悪童を追い払う。
     また、ほかの村では憲兵か、巡査かが村の入り口で千代吉をどつきまわし村に入り口に掲げてある看板−押し売り、感染病者、変質者、その他村人に危害を加える恐れのある者村への立ち入りを禁ず−の規則に従って彼を追い出そうとするが、秀夫はその後ろから棒で彼に一撃を加え振りほどかれて転落する。額に深い切り傷を負い出血した秀夫に即座に駆け寄り抱きしめ守る姿勢を見せる千代吉。このような旅の果てにたどり着いたのが島根県亀嵩村であった−
     神社の下に隠れていた本浦親子を保護したのが後に和賀に殺害される三木謙一巡査である。彼は一端千代吉を村内の隔離病舎に入れ県からの指示を仰ぐ。県衛生部は千代吉を岡山県の施設に入れることに決めたが、千代吉は納得しない。秀夫と別れがたいからだ−
    「本浦、どうしても秀夫とは別れたくねぇがや」
     三木が言う。
     「え、ええ!」
     震える体でそう答える千代吉。
     「じゃあ、病が秀夫にうつったらどげんする」
     「病気の感染の危険だけじゃない、これからおおきにする秀夫の将来にお前今までどおりやっちょって良いとおもっちょんのか!」
     震える体で、納得するしぐさを見せる千代吉。「うん」と三木が頷くー
     そして千代吉が施設に移送される日。彼を乗せた荷車が秀夫のいる駐在所前を通る。三木は荷車を止めさせ、千代吉の体を抱え上げ秀夫に向きなおさせる。千代吉と秀夫は見つめあい、駐在所内にいた三木の妻は涙ぐむ。そして言葉を交わさず亀嵩駅へ再び荷車は動き出す−
     舞台は再びコンサートホールの和賀。ピアノソロのシーンは彼にスポットライトが当てられジャズ風のリズムの曲を秀夫の両手が刻む。しかし、突如としてテンポをあげ宿命の主題がオーケストラと共に沸騰する。秀夫は駐在所を飛び出し、涙を流しながら裸足で亀嵩駅をひた走る。まもなく汽車がつくころ駅のホームに近づいてくる秀夫を最初に見つけたのは千代吉の付き添いの三木でホームに駆け寄ってくる秀夫を千代吉も認め椅子から立ち上がり、やや止めようとした三木を無視して二人は強く抱き合う。「宿命」の主題もクライマックスに達し、汽車の汽笛がそれをさえぎるまで二人の抱擁は続いた。三木も制帽で目頭を隠し、その情景に見入っていた−

  •  再び警視庁合同捜査会議の今西−
     「三木は取り残された秀夫を保護しながら養育してくれる篤志家を探しましたが、父親の病気が病気なだけに引き取り手がなく、最後に子供のない三木巡査は秀夫を自分の子として育て上げる決心をしたようであります」
     そのあと愛情と誠意を持って秀夫に接する三木夫妻の姿が描かれる。
     今西が言う。
     「これほどの夫婦の情愛にもかかわらず放浪癖が身についてしまったのか、あるいは父親を慕ってのことか」
     秀夫は単身再び失踪したのである。

  •  捜査主任らしき刑事が今西に問う。
     「するとその失踪した本浦秀夫がどういう経路を経たかはわからないがとにかく大阪にでて和賀英造に拾われて店員になった、こういうことだね」
     「はい。昭和19年の暮れごろより和賀自転車店の小さな店員であり、昭和23年に至って戸籍面での創作により和賀英良になりました。その後の経緯については一括書類の通り明瞭で苦学して京都八坂高校を卒業いたしました。その後、東京に出てまいりまして芸術大学の烏丸教授にその天分を認められ今日を成した、とこうなっています」
     捜査主任がタバコに火を吹かしながら言う。
     「和賀英良としては順風万法、まさに輝くような人生の途上にある。その前に思いもかけない三木謙一が現れた。殺しの動機としては自分の生い立ちや戸籍詐称までばれる、とそういうことだね」
     「いえ、その点は和賀の自供に待つより他はありませんがこういう推測が成り立ちます。三木は軽々しく和賀の前身を口外するような男じゃあない。しかし彼としましてはどうしても過去の重要な問題に触れざるを得なかったはずです」
     ここで一端言葉を切って続ける。
     「三木は余命幾ばくもない秀夫の父親本浦千代吉に会うことを(和賀に)強く希望、いや主張してやまなかったのであります」
     「なに、本浦千代吉が生きている?」
     「はい」
     舞台は老いた千代吉が暮らす施設に今西が訪ねたときに移る。車椅子を看護婦を押してもらい今西の前に現れた千代吉は片方の目がほとんど閉じたままで首に巻いた包帯も昔のままだった。今西が用件を切り出す。
     「本浦千代吉さんですね」
     「は、はい」
     「突然お邪魔したのは他でもありません。こういう人をご存じないかと思いまして」
     と言ってサングラスをかけた和賀の写真のコピーを手渡す。しばらくそれを眺めていた千代吉に嗚咽が漏れる。成長した和賀英良の額にかすかにのこる傷跡と幼少期の別れ際の、まだ生々しい傷跡が千代吉の脳裏で重なる。
    「うう、おぉ、おう、オオー!!」
     「で、本浦千代吉ははっきりと和賀を秀夫だと認めたのだね」
     捜査主任。鋭い目つきの今西。情景は再び施設へ。
     「こんな顔の人は知らない」
     「は、はい」
     「では、見たことも会ったこともないんですね?」
     「は、はい」
     「それじゃあ、あなたがよくご存知の人で、五つか六つの子供をこの青年にしてみたとしたら、それでも心当たりはありませんか」
     この言葉にうつむいて、「うあ〜、うあ〜!!」と叫ぶ千代吉。そして顔を上げると今西に向かって叫んだ。
     「知らねぇ!!そんな人知らねぇ!!ぅわ〜!!」

  • −舞台はコンサートホールへ。ピアノを弾く和賀を後ろから捕らえた映像。それが左により、右に三木謙一の顔のアップが出る。彼は和賀に激しく詰め寄る。
     「なぜだ秀夫、どげんしてなんだ。会えばいまやりかけちょう仕事がいかんようになるなんてなしてそげな事いうだらか。たった一人の親、それもあげな思いをしてきた親と子だよ!!秀夫、わしゃ、お前の首に縄かけてでも引っ張ってくから!い、一緒に来い、秀夫!!

  •  再び捜査会議の席上の今西刑事ー
     「主任看護婦、および担当医師立会いの下に、千代吉の私物を点検しましたところ来信が約50通出てまいりまして、これらを押収いたしました。それは全て三木謙一よりのもので、千代吉にとりましては三木謙一だけがこの世で通信を交わしておったたった一人の人間でございます。そしてその内容は、ほとんど千代吉の意思、秀雄に終始しておりまして、秀雄は今どこにいるんだ、死ぬまでに会いたい、一目だけでもいいから会いたい。千代吉はただただそれだけを書き綴り、三木は、あなたの息子は見所のある、頭のいい子だから、きっとどこかで立派に成長しているだろう、そしてその内に必ず必ず、きっと会いに来るに相違ないと繰り返し繰り返し、繰り返し繰り返しこのように慰めてます」
     今西の手がハンカチをつかみ瞳を拭うー

  •  舞台は再びコンサートホールの和賀。「宿命」の指揮を続ける和賀。その会場に逮捕状−「作曲家和賀英良こと本浦秀夫」の文字−をもって車で向かう今西と吉村の両刑事。会場の正面から客席に入るも和賀の指揮をさえぎることをはばかってか舞台裏へ。舞台天井に着いたところで吉村が今西に問う。
     「今西さん、和賀は父親に会いたかったんでしょうね」
     鋭い眼差しと口元をたたえて今西が答える。
     「そんなことはきまっとる。今彼は父に会っている。彼にはもう、音楽、音楽の中でしか父親に会えないんだ
     「宿命」は疾走するフィナーレを迎える。ピアノとオーケストラが競合し劇的なクライマックスへ和賀の指が鍵盤を走りオーケストラがうなる。最後の和音の連打で和賀はピアノから立ち上がり両腕を振り下ろしそして最後の一音の至って腕を振り上げ、音楽の終幕にあわせて両腕を胸の下で握り締める。すぐさま喝采が巻き起こり、和賀は疲労の極、ピアノの椅子に座り込む。カメラのフラッシュがたかれ彼は顔を上げる。その瞳には、涙が光っていた−
     鳴り止まない拍手に和賀の涙は乾き笑顔で聴衆に向き直る。舞台裏からその情景を憮然として眺めやる今西・吉村両刑事がいた−
     映画は次のテロップを出して終幕を迎える。
     ハンセン氏病は医学の進歩で特効薬もあって、現在では完全に回復し社会復帰が続いている。それを拒むものはもだ根強く残っている非科学的な偏見と差別のみで、本浦千代吉のような患者はもうどこにもいない。
     −しかし−
     旅の形はどのように変わっても−
     親と子の”宿命”だけは永遠のものである−

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